信じる神様が違う

「せいぜい神に祈れ。お前たちに神がいなければ俺に祈ってもいい」

 二色のライズが最後に閃く。彼は獰猛に、苛烈に、そして凄艶に顔を歪めて目の前の怪物たちを屠ってみせた。ぞっとする美しさだった。ああ、私の知る神とはきっと違ったが、彼に神の名がつくことを思い出した——仮面ライダー神威!
 きらきらと、光線の軌跡が宙に残っている。マゼンタとシアンの輝きは、先程まで敵を倒すために存在していたのに、今は白々しく綺麗だ。
 神威くんがゆっくりと振り向いた。爪先から左のこめかみまで纏ったアイボリーのライダースーツは骨を思わせて、ぼんやりと、レオンと行った博物館に展示されていたおおきな動物の骨格標本を連想した。美しい鎧は口元を覆っているから、今彼がどんな表情をしているのか推量することは叶わなかった。

「いつまでそうしている」

 声をかけられて、自分が地面に尻餅をついたまま呆けていることに初めて意識が向いた。
 手のひらに地面の感触がしている。思い出したように呼吸すれば砂埃が鼻をついた。立ち上がろうとしても膝に力が入らなくて、自分のことなのに心ここにあらずという感覚で繰り返す。ふわふわしたものの上に座っている心地だ。腕に力を込めようと何度か試みたから手が痛むのがどこか遠い。
 溜息の後、彼から手が差し出された。瞬きをして見上げる。視線で促されて、そっと手を伸ばした。
 指先がライダースーツ越しに触れ合った。
 きゅ、と握られた途端勢いよく引っ張られて、つんのめりながら立ち上がる。勢いを殺せず正面からぶつかりそうになっても、神威くんはするりとかわしてなんでもないみたいに立っている。

「まったく。しっかりしろ」
「……あはは、そうだね……」

 さっきまでいくつもの命を冷たく眠らせていた手を、今は私を助けるために使える彼は、きっととても頼もしいヒーローなんだろう。
 それでも私は圧倒されて動けなかった。
 大事な場面で曖昧に微笑んでしまうのは私の悪い癖だった。私は彼を畏れ、彼に魅せられている。神の名のつく、たった二十歳の青年の、導くように葬る手つきを畏れ、同時に魅せられている。
 ともに戦う立場だというのに、いつか自分さえ裁かれることを待つような感情が、まだ私の膝を震わせていた。